スタートアップ企業が、人材、時間、資金などの資源が限られた状態からスケールアップを目指すために課題になるのが、メンバー間の「スキルの標準化」ではないでしょうか。特定の人の経験則に頼る業務フローは、再現性が低いためにスケールのスピード感が下がり、無理に仕事量を増やそうとすれば、クオリティの低下を招くという成長のボトルネックになります。
報道記者の集団として事業をスタートし、その高い専門性をベースにして企業や自治体向けにブランディングやプロモーションのサービスを展開してきた「合同会社イーストタイムズ」も、一部のメンバーの経験則に頼った業務フローが、事業拡大のボトルネックになっていました。
そんな課題の解決に一役買ったのが、ガントチャートを使ったプロジェクト管理ツール、シェアガントだったといいます。暗黙の職人技で行われていた業務を、シェアガント上で分解して見える化したことで、ブラックボックスになっていた業務をノウハウとして展開することが可能になり、あいまいだった指示も明確になってチームのコミュニケーションがスムーズになりました。
企業や自治体のブランディングやプロモーション支援を行っている合同会社イーストタイムズ(東京都渋谷区)では、プレスリリースや企業や商品コンセプトを表現する記事コンテンツを制作する案件を数多く抱えています。中でもプレスリリースの制作には、メディアに訴えかける「ニュース性」の分析や、そのニュース性を瞬時に記者に伝える構成つくりなど、専門的な経験値が必要となります。その制作は報道記者の経験を持つ一部のメンバーが担い、暗黙知になっていた職人技で業務が進められていましたが、こなせる案件の数には限界があるため、そうした状況が案件を抱えるメンバーの負担になっていました。
こうした課題は、急速なスピードで拡大しつつあるイーストタイムズにおいて深刻な課題だったと、代表の中野宏一さんは語ります。
「イーストタイムズはこの1年半でメンバーが3、4倍に増えています。しかもほとんどが報道やブランディングの未経験者。社内でスキルギャップがある状態で、会社自体はすごいスピードで伸びているから、スキルをどうやって共有したらよいのかは悩みどころでした」
「スキルギャップを埋めるコミュニケーションはストレスが大きかった」と中野さんは振り返ります。「これやっておいてと投げても、投げられた人はそもそも何から始めていいのかもわからないわけですよね。僕も暗黙知が故に明確な指示を出せないこともあるから、相手は訳が分からず怒られるという感じで雰囲気が悪くなることもありました。指示される方も納得感なく指摘されると、心理的安全性が下がって萎縮するから、そういう状態では良いディスカッションやイノベーションが生まれないですよね」
メンバー間の関係性にも悪影響を及ぼしていたスキルギャップに対処するべく、イーストタイムズではすべてのメンバーが容易に理解できる要素まで業務を因数分解して、「暗黙の職人技」のスキーム化を試みました。そのとき役に立ったのが、シェアガントだったといいます。
業務フローが直感的にわかるガントチャートをベースにし、「何をやるのか」「それをだれがやるのか」「時間はどれくらいかかるのか」といった補助線の上で工程を洗い出すことで、暗黙知で行われていた業務の因数分解が初めて可能になりました。
洗い出した工程はそれぞれ担当者とスケジュールをシェアガント上で設定。機能的なガントチャートが、考えることに集中できるわかりやすいUIで簡単に制作できたといいます。
シェアガントで制作したガントチャートは、打ち合わせ時に画面共有をしながら確認します。「オンラインの打ち合わせではすぐコミュニケーションに良い変化が現れた」と、イーストタイムズで案件管理のディレクションを行う栗田宏昭さんは話します。「それまで1時間半かかっていた時間が進捗確認の打ち合わせが30分に時間短縮できました。プロジェクトの全体の中で、今どの部分を話しているのかがひと目でわかるので、前提の共有が必要なかったのが大きいと思います。どこを目指すのかというゴールも見えるので、意思疎通が非常にスムーズになりました」
暗黙の職人技として、ブラックボックス化していた業務を分解して、ガントチャートに落とし込んだことで、プレスリリースに関しては報道記者経験のないメンバーにも制作に関与することができるようになり、スキルの共有もスムーズになってきたというイーストタイムズ。進捗管理においても、あいまいだった指示が具体的で的確なものになり、コミュニケーションがスムーズに行えるようになったといいます。
また、各工程で「何を達成すべきなのか」という内容をそれぞれ明確にして、それをチェックポイントとして、都度チェックを入れる体制を作ったことで、工程が進んだ状態で方向性がズレていて差し戻して作り直すということがなくなり、アウトプットの質の向上と安定につながっているといいます。
案件の因数分解とスキーム化のプロセスは、プレスリリース以外のプロジェクトにも良い影響を与えています。イーストタイムズは日本中の企業や自治体に対して、課題を解決する提案型事業を行っています。アプローチする課題が毎回違うので、提案する企画もその都度変わります。前に積み上げたスキームがそのまま利用できることは、ほとんどありません。
「何をどうやってやれば、その企画ができるのかが毎回違うので、その案件遂行のためのスケジュールとタスクを割り出すには才能というか、ノウハウが必要なんですよ。前提となる条件が案件ごとに違うので」。数々の企画を立案してきたイーストタイムズ代表の中野さんは、初めての企画における案件管理の難しさを感じてきました。
しかし、シェアガントに残ったこれまでのブロジェクトのスキームを参考にすることで、企画段階からゴールまでの道筋が想像しやすくなり、より精度の高い企画つくりやタスクの割り出し、進捗管理が可能になったといいます。毎日使っているだけで、自然と企画つくりや案件管理のスキルについてもメンバー間でノウハウの共有が行われているのです。
ガントチャートは案件の進捗を視覚的に整理するためのツールですが、イーストタイムズではシェアガントの導入によって、進捗管理にとどまらず業務上のさまざまな課題を改善しています。今後は労働集約的なプレスリリースや記事の制作について、今回確立したスキームを活用して、より付加価値が大きく効率化された新しいサービスの開発を行っていくなど、シェアガントの利用を起点にさらなる事業拡大の可能性を追求しているそうです。